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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1969号 判決 1960年10月08日

控訴人(第一審被告) 倉本物産株式会社

被控訴人(第一審参加人) 中野三四一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余の部分を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、第二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、控訴代理人において、仮に、訴外群馬県経済農業協同組合連合会(第一審脱退原告、以下訴外組合という)が控訴人に対し大豆の売掛代金九十四万三千八十円の債権を有し、その支払のため本件約束手形が振出されたものとしても、右売掛代金債権は民法第百七十三条第一号に当る債権であるから本件約束手形の満期日である昭和二十九年六月一日から起算して満二年後である昭和三十一年五月三十一日限り時効の完成によつて消滅しておるから控訴人は右時効を援用する。従つて控訴人は訴外会社に対する本件約束手形金支払義務をも免れたものであるが、被控訴人は右手形の満期日後である昭和三十三年四月三日訴外会社から右手形を裏書により取得したものであるから被控訴人に対しても右事由を主張することができる。よつて被控訴人の本訴請求に応ずることはできない。なお被控訴人主張の債務承認の事実は否認すると述べ、被控訴代理人において、控訴人の右短期時効の主張は、故意若しくは少くとも重大な過失により時機に後れてされたものでありこれがため訴訟の完結を遅延せしめるものであつて許さるべきではない。しかも訴外組合は農業協同組合法により組合員の生産する物資の運搬、加工、貯蔵または販売を目的として設立された公益法人であつて営利を目的とするものではない(同法第八条)から民法第百七十三条第一号にいわゆる生産者若くは商人には当らない。従つて訴外組合の売掛代金債権につき同条の短期時効の規定は適用されない。(しかも同法中には協同組合またはその連合会が業務上取扱つた物資の売却代金について何等の特別規定を設けていないから右代金の時効については一般原則に従うべきところ、控訴人は商事会社であるから商法第三条及び第五百二十二条の規定により、右代金債権の時効は五年となるのであるが、本訴はこの時効完成前昭和三十二年五月二十日に提起されているから時効は完成しない)なお仮に右債権につき前記民法の規定が適用されるとしても、控訴人は昭和二十九年六月一日(前記支払期日の翌日)後である同月二十三日訴外会社に対し本件売掛代金を昭和三十年六月末日及び同年十二月末日の二回に分割して支払うことを約して右代金債務を承認し、更に昭和三十二年五月二十日前後及同年七月二十日に前記代金債務を承認しているのであつて控訴人主張の短期時効も右承認によりその中断を見たものである(なお手形債権としてみる場合その時効期間は三年であるが、この三年の時効が完成しないことについても右に述べたとおりである。)と述べ、新な証拠として、被控訴代理人は、丙第三号証、同第四号証の一乃至三、同第五号証の一乃至四、同第六号証を提出し、当審証人設楽清胤、同神保三郎の各証言を援用し、控訴代理人において、当審における控訴会社代表者倉本泰光本人尋問の結果を援用し、丙第三号証、同第六号証の成立を認め、同第四号証の一乃至三、同第五号証の一乃至四の成立は不知と述べた外原判決の事実に摘示されたとおりであるからこれを援用する。(原判決には控訴人が丙第一号証の成立を認めた旨の記載があるけれども原審調書には控訴人は同号証の裏面については不知と答えた旨記載されている、もし不知をもつて争うにしても被控訴人はその援用する証人の証言によつてその成立を立証している。)

理由

控訴人が昭和二十九年五月十二日訴外組合に宛て金額九十四万三千八十円、満期日同月三十一日なる本件約束手形(丙第一号証のとおり)一通を振出し、訴外組合が右満期日後である昭和三十三年四月三日被控訴人に裏書譲渡したことは当事者間に争がなく、成立に争のない丙第二号証の一、二によれば、訴外組合が昭和三十三年四月十六日控訴人にその旨を通知したことを認めることができる。控訴人は訴外組合からその帳簿上のつじつまを合せるのに必要であると訴えられ、控訴人には責任を負わせない旨を約して本件手形の振出を懇請されたのでこれに応じ右手形を振出したものである旨を主張するけれども、当審においても原判決の理由に説明されているようにこの事実を認定することはできない。よつて原判決の理由中この部分(原判決五枚目表終から三行目以下裏末行まで)を引用する。なお当審における控訴会社代表者倉本泰光の供述中右抗弁事実に符合する部分は原審及び当審証人神保三郎の供述と対比し措信し難い。次に、控訴人の短期時効の抗弁につき案ずるに、被控訴人は右抗弁は時機に後れたものである旨を主張するところ、控訴人が右抗弁を原審においては主張することなく、当審において初めて主張したことは記録上明であるから控訴人の右抗告はいささか時機に後れて主張された謗を免れ得ないけれどもその主張自体に徴しそのために著しく本訴訟の完結を遅延せしめるものとは認められないから右主張は却下するにはあたらないものというべきである。ところで、控訴人は訴外組合は民法第百七十三条第一号にいわゆる生産者または商人に当るからその債権につき同条所定の短期時効の完成により消滅した旨を主張し、被控訴人はこれを争うのであるが、成立に争のない丙第六号証、当審証人神保三郎の供述によれば、訴外組合が農業協同組合法にもとずき被控訴人主張の目的を以て設立せられた組合であることが明であるから、訴外組合は右にいわゆる生産者若くは商人には当らないものといわねばならぬ。しかしながら右のような組合であつてもその外部関係における活動すなわち第三者との取引状況においては商人のそれと類似することは顕著な事実であるからこれについてはなお商法中商人に関する規定が準用せられ従つて商法第五百二十二条民法第百七十三条第一号により訴外組合から控訴人に対して売渡した本件大豆の売掛代金債権(本件約束手形の基本債権)についても民法同条の短期時効の進行を見るものと解するのが相当である。しかるに成立に争のない丙第一号証(不知だとしても被控訴人の援用する証人の証言によりその成立を認め得る)同第三号証、当審証人設楽清胤、同神保三郎の各供述、右証人神保三郎の供述により成立を認めることができる丙第四号証の一乃至三、同第五号証の一乃至四によれば、訴外組合は本件約束手形の満期日後である昭和二十九年六月二十三日頃控訴人に対し右手形の基本債権である被控訴人主張の大豆の売掛代金残額九十四万三千八十円及び別に同組合から控訴人に売渡した(売買であるか委託販売であるかはしばらくおく肉牛の売掛代金残額五百一万六千五百七十八円の支払を請求したところ、控訴人においてこれを承認し、同組合に対し右両売掛代金の元利金を合計金六百万円とし、内金二百万円を昭和三十年六月末日に、残金四百万円を同年十二月末日にそれぞれ支払うことを約したこと、右各約定の日になつても控訴人において右債務を履行しなかつたので訴外組合はその後二年の期間の経過前である昭和三十二年五月二十日控訴人に対する本件約束手形金請求訴訟を提起し現に係属中であることを認めることができる。(右訴の提起、係属は記録上明である。)これによれば右大豆の売掛代金債権については控訴人の承認によりその消滅時効の中断があつたものというべく、従つて右時効の完成により本件約束手形債務をも免れた旨の控訴人の抗弁も採用することができない。しからば進んで被控訴人の仮定的主張について判断するまでもなく、控訴人は被控訴人に対し本件約束手形金九十四万三千八十円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明である昭和三十二年六月五日から完済まで年六分の割合による損害金を支払うべき義務のあることが明であるから右の限度において被控訴人の本訴請求を正当として認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十五条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 梶村敏樹 岡崎隆 堀田繁勝)

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